2016年5月アーカイブ

2016年リサイタル

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D959の旅が終わった。
終わったというのは違うかな。ひとまず旅から帰ってきたということにしよう。
難しかったけれど、曲と仲良くなっていく時間は本当に楽しかった。

今回のリサイタルはシューベルトのD537とD959を一晩で弾きたい!という単純な理由からのプログラミングで始まった。
D537とD959の間に弾くのはドビュッシーのピアノのために。
イ短調→イ短調→イ長調、何て美しいプログラム!(自己満足)

D537のソナタはシューベルトの若い時のファンタジーに富んだ作品。
モチーフが断片的でインスピレーションをそのまま五線紙に埋めたよう。
秀逸は第2楽章で単純で可愛らしいテーマが形を変えた伴奏を伴って繰り返される。
このテーマがD959の第4楽章に使われているので一緒に弾きたかったのだ。

D959の長大な傑作をどうしたら最後まで一つの作品として聞いてもらえるか。
これが一番難解だった。
作品の良さを伝えることを一番の仕事と思っているけれど、この作品に自分が太刀打ちできるのか。
第1楽章のあたかも人生を肯定するような出だしから、慈愛に満ちた第2テーマ、一音一音の行き先が明瞭なのだがこの楽章を弾いているととても心が静かになった。
そして絶望の第2楽章から音楽はぐっと深まってきて、第2楽章が終わると必然的に第3楽章が遠くからやってくる。この第3楽章が可愛らしくて短いのに難しかった!
そして本当に本当に難しく素晴らしい第4楽章。
生命力にあふれて、幸せで、人生を謳歌している第4楽章は、このD959全体の魅力に繋がっていると思う。
なんというか、この楽章が最後で「あぁ、やはり人生は素晴らしいのだ」と思えるのだ。

こんなことを考えながら曲の紐解いていく作業は本当に興味深く、昨日思ったことが全然違うように見えたり、わかったと喜んだ次の日にはうまくいかないと落ち込んだり、
そんな時間は辛くて大変だったけれど、やっぱり財産だと思う。

でも、何より世界的遺産のようなD959をお客様と共有できた喜びったらない。
きっと聞いてくださった方一人一人にそれぞれのシューベルトを感じたと思う。
演奏やコンサートとは不思議で、私が弾いたシューベルトではあるが、
一人の耳から体に入った瞬間にその人のシューベルトになる。

今年も大切にしているコンサートを出来たことに感謝。
来年に向けて、また体力つけなきゃ!

地震から一ヶ月後の熊本にて。

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忘れられないコンサートとなった。
未曾有の大地震から一ヶ月後の5月14日の熊本でのリサイタル。
無駄なことを何も考えずにピアノに向かえたコンサートだった。

4月14日にテレビを見ていたら熊本で大地震が起こった。
まさか熊本で??一番地震に無縁の土地だと思っていたのに。
心配して心配して、朝になったら知り合いに連絡してみた。
皆が無事でホッとした。
それから2日後の本震。そしてあまりにも多く強い余震の数々。
なぜ熊本が??
まるで胃の中に重く黒い塊がうごめいているようだった。

「生きていますよ」「九州の女は強いですよ」
心配してメールをしたのに、私の方がどれだけ勇気づけられたことか!
自然の前になんと人間は無力なのだろう。

それから一ヶ月後の熊本でのリサイタル。
キャンセルに違いないと思っていたのだが、主催の岡村さんがやりましょう!と言った。
時期尚早という気がしたのだが、「熊本の芸術の灯を消したくない」という
彼女の一言を聞き、何が何でも行こうと思った。

熊本の友人たちは皆元気だった。
再会を喜んでいると地震があったなんて信じられなかったが、
皆、それぞれが大変な一ヶ月を過ごしたんだろうな。
コンサート当日、10人でも20人でも来てくれたら嬉しいと思っていたが、
思いがけず慌てて椅子を追加するほどのお客様がいらしてくださった。
地震から初めて出かけたという方もいた。
ここに来てくれた人たちとシューベルトを共有出来るのが嬉しかった。
上手く弾かなきゃとか無駄なことは一切考えなかった。

皆が笑顔で帰っていくのをこんなに嬉しいと思ったことはない。
忘れられないコンサートになった。

CD情報

諸田由里子 ピアノ・リサイタルII
ドビュッシー「版画」

2010年1月25日発売。
諸田由里子 ピアノ・リサイタルII
ドビュッシー「版画」イメージ
ショパン:ノクターン No.1Op.9-1 No.4 Op.15-1 遺作 マズルカ No.32 Op.50-3 モーツァルト:ピアノソナタ第13番 B-dur K.333 ドビュッシー:アラベスク 版画 月の光
WWCC-7633 ¥2,625(税込)


Profile


諸田由里子 Yuriko Morota
ピアニスト Pianist

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